人類の活動において必要な材料には,先に述べたように,社会基盤や構造物向けの材料,あるいは時代の要請による新しい機能や性能を持つ材料,等々があります。より具体的には,種々の金属や合金,化合物,セラミックス,半導体,その他の関連物質などです。
私たちマテリアル工学科・物質工学専攻では,以上の材料群を念頭に,次に述べる研究領域をターゲットとしています。すなわち,(1)原子・ナノレベルから新材料を設計・作製する研究領域(マテリアルデザイン領域),(2)人類社会を支える基盤産業分野向けの新材料を生み出す研究領域(基幹産業マテリアル領域),(3)エネルギー・環境分野に革新を引き起こす新材料を生み出す研究領域(エネルギー・環境材料領域)の3つです。
(1)の研究領域では,量子力学や熱力学に基づいて原子・ナノレベルから材料を設計する手法を開発して実際に作製し,人類にとって有用な材料を新たに見出すことを目的とします。そこで主役となるのは原子や電子,あるいはそれらが組み合わさった結晶です。そのようなミクロの世界で起こっていることを理解するためには,ミクロ観察技術やスーパーコンピュータの助けが必要です。いずれは計算機の世界で自在に新材料の設計ができるようになるでしょう。
(2)においては,最先端のマテリアル工学を用いて,社会の血肉となる現状の有用な材料を改良し,あるいは新材料を新たに開発して基盤産業分野に供給することを目指します。21世紀は,世界中でインフラストラクチャーの建設が進み,自動車や列車,飛行機などでも大量の新しい材料が必要となっています。産業競争力を維持し,地球環境に負荷をかけず,これら製品群をいかに早く安くオーダーメードで供給するか,それがこの領域の最大の課題であり,(1)の領域と協力し,ナノテクノロジーを駆使して研究を進めていきます。
(3)においては,21世紀の最大の課題となりつつあるエネルギー・環境問題を解決するため,そこで必要な革新的な材料を開発することを目指します。20世紀は石油を大量消費する時代でした。21世紀は石油の使用から脱却し,地球環境に負荷をかけない全く新しいエネルギー・環境材料技術が必要とされています。この領域の材料の研究は,もちろん,(1)の領域の原子・ナノレベルの知識を活用し,また新しいナノ製造技術も試しながら進めることになります。
以上,述べてきたようにマテリアル工学の世界は,科学技術のフロンティアであり,新しい挑戦が待ち受けています。この分野を切り開く鍵は,原子,電子,結晶であり,それらを理解し設計する量子力学や熱力学,さらに実際に新材料を製造するためのナノテクノロジーや新しい製造プロセス,そしてミクロ観察技術です。ぜひ若い人たちにこの分野に興味を持ってもらい,人類社会への貢献を目指して,私たちと一緒に探索の旅に参加してもらえることを期待しています。