Al,Mg,Tiなどの軽量金属を中心に,磁性材料,半導体,セラミックスなどの機能性新材料について材料開発研究を行います.具体的には,100種類以上存在する元素の組み合わせから必要な特性をもつ化合物,組織を予測するために,安定相の出現を予測する状態図の計算を行い,材料設計を行います.また,第一原理計算を組み合わせた状態図計算法を発展させ,実験で観察できない準安定相も含めた新規物質の探索や材料設計を目指します.また,計算により予測された新しい材料の物性や組織形成のメカニズムについても,中性子散乱法をなどの手法を用いて実験による実証を行います.
物質の基本である微細組織,特に原子や電子のようなミクロレベルの構造と性質について,並列計算機による計算材料学や電子顕微鏡などの技術を用いて科学的に解明しています.そこで得られた知識を応用することによって,高度化,多様化する社会の要請に応えられる新しい機能を持ったマテリアルを設計し,実際に材料を作製することによってこれまでにない特性を有する新材料の開発を行っています.(図1)
水素燃料を用いる燃料電池自動車には,水素を使ってエネルギーを生み出すために水素吸蔵合金が用いられています.これは,粉末のバナジウムなどの合金に水素を吸わせておいて,必要に応じて取り出し,空気中の酸素と反応させることによってエネルギーを生み出すものです.合金の中に水素を貯蔵しておけるので,車体に搭載しても安全で,かつ二酸化炭素の排出のないクリーンな環境の維持に大きな役割を担っています.私たちは,もっと軽量で優れた特性を持った新しい水素吸蔵合金の開発を目指しています.図2は実際の水素化物の電子的な広がりを電子論に基づいて計算した結果です.このような計算を行いながら,どのような結晶構造が水素を吸収しやすいのかを調べ,その目的に合致する材料を探索しています.
ジュラルミンに代表されるアルミニウム合金は,軽量で高強度,切削性に優れた人類の基盤材料として航空機や輸送機器,機械部品など,幅広い分野に使用されています.このようなアルミニウム合金を支えているのは,時効効果性といって,時間とともに硬く強くなっていく独特な性質ですが,私たちはこのような特性を発現させる原因であるGPゾーン(図3)という構造について計算材料科学の手法を用いて研究し,同様の性質を示す新しい合金の探索を行っています.
マグネシウムは実用金属のうちで最も軽量で,比重はアルミニウムの3分の2,鉄の4分の1ほどです.またクラーク数は8位であり,シリコン,アルミニウム,鉄についで地球上に豊富に存在する元素です.このような軽量金属であるマグネシウムは,これまで強度が不足しているために応用範囲が限定されてきましたが,最近亜鉛やイットリウムなどの元素を添加することで,比強度に優れ延性も示す高強度マグネシウム合金が熊本大学河村教授によって開発されました.この合金の特徴は,六方晶構造を有するMgの原子面に,図4のような添加元素(亜鉛やイットリウムなど)が規則正しく濃縮していることで,これがジュラルミンに匹敵する高い機械的強度と延性を生み出す源になっています.そこで私たちは,計算機上にこのような長周期積層構造(図5)を作成しながら様々な条件でその熱的安定性を評価し,この独特の構造の生成要因をつきとめるために材料組織学的観点からの研究を行っています.
材料の特性はそれを構成する結晶相,さらには複合組織に大きく左右されます.本研究室ではX線,電子線,中性子線を使って,材料内部の構造・組織を明らかにし,特性や機能性の原因解明を行います.図6は 熱膨張のコントロールを可能にする逆ペロフスカイト型化合物の局所構造です.一見整然と並んでいるように見える結晶構造のなかで,特徴的な歪みを持っていることが明らかになりました.この構造は特性と密接な関わりを持っていると考えられ,この構造の役割を理解することが今後の重要な課題のひとつとなっています.
超伝導とは電気抵抗がゼロになる現象ですが,この機能性を利用した材料研究が盛んに行われています.近年では「磁性」を超伝導性の起源として持つ物質が数多く発見されており,現在最高の臨界温度を有する銅酸化物もこの一種です.本研究室では,超伝導や他の新規物性をもたらすような「磁性」に焦点を当てた研究を行っています.物質内部の磁気モーメントの様子は,磁化測定と中性子散乱法によって調べることができます.金属の磁性は,図7のようなバンド構造(近年発見されたFe系超伝導体のフェルミ面)と密接な関係にあることから,電子状態計算なども併用して,機能性の起源に迫りたいと考えています.
各種の先進機能材料および構造材料の持つ諸特性には内部組織が大きな影響を及ぼす事から,その機能を最大限に引き出すには材料の組織制御が不可欠です.ナノからマクロスケールに至る各種材料の組織制御のための基本情報は平衡状態図にありますが,しかし実際の材料では,多かれ少なかれ何らかの準安定状態が特性に影響を与えている場合が多いのです.これらの状態は実験では作り出すことができないので,物質内部の原子,電子の振る舞いから電子論計算で予測する以外に方法がありません.私たちは,第一原理,格子振動理論などに基づいて,実験では知ることができない領域の物性の予測を行っています.図はこのような基礎的研究の成果であり,図8はホウ化物(ホウ素と金属元素の化合物)の生成エンタルピーについて,また図9はB1型化合物の比熱について実験データと計算結果の比較を行ったものです.実験値がある安定構造について両者の間にたいへん良い一致が見られることから,このような計算結果は準安定構造についても十分な精度でその熱力学的物性を予測できる可能性があることが分かります.